『催眠聖女 ローザ・フェアリー』(1)

 ローザはヨーロッパのある国の古い小さな田舎町に来ていた…… 町は歴史を感じさせる建物が多く存在し、建物の至る所にはまだ大戦の傷跡が生々しく残されていた。 また町には『聖ヒプノ修道院』にゆかりの深い教会がある。

 ローザは『マザー・ヒプノティスト』に依頼され、この町にいるという奇跡の力を持つ少女の調査にやってきた。



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 「ローザ、あなたにお願いしたい事があります……」

 「はい、マザー・クレア。 どのようなご用件でしょうか?」

 「実はこの修道院にゆかりの深い町に、奇跡を起こす力を持つ少女がいるので、その町の神父から少女の力について調査をしてほしいと依頼がありました。 その少女ですが、どうも普通の少女ではないとのことです。 あなたにお願いしたい事とは、その町に行って少女の持つ不思議な力がどういうものなのか調査をしてきてもらいたいのです」

 「奇跡を起こす力を持つ少女ですか…… それはどんな奇跡なのでしょうか?」少女の持つ奇跡を起こす力とは一体どのようなものなのか?

 「神父の話によると、実際にみてもらった方がわかりやすいので町まで来て欲しいとのことです。 ですので『催眠聖女」の中でも特に高い資質を持つあなたに行ってもらうことにしました。 それに少女はその町の人間ではなく東洋から来たらしいとの事……」

 「東洋から来た少女?! それは不可解ですね......」

 「その少女はこの世のものとは思えないほど美しい少女だそうです。 調査に行ってもらえますか?」

 「かしこまりました。 明日にでも調査に向かいます」

 「よろしくお願いします。 その国のアン王妃はかつて『聖ヒプノ修道院』にいらした催眠聖女で私の友人でもある方です。 私からアン王妃を通じて事情を話しておきますので、安心して調査をしてください」

 「かしこまりました。 調査が終わり次第、マザーにご報告致します」

 「頼みましたよ、ローザ…… 『メスマリア』様のご加護があらんことを……」

 「はい、マザークレア…… 『メスマリア』様のご加護があらんことを……」



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 ローザは町に到着すると、まずは教会へと向かった。 依頼があった神父から少女の事を聞くためだ。

 教会に向かいながら町の様子を伺っていると、町の広場に人だかりができているのを発見した。 

 「人が集まって何をしているのかしら?」興味をそそられたローザはその人だかりの方へと向かった。

 すると人だかりの中央に一人の少女がいた。 ローザはその少女を一目見て衝撃を受けた。 少女はこの世のものとは思えないほど美しかった...... 白く透き通るような肌。 純白に輝くプラチナ色の長い髪、そして何より驚かされたのは少女の瞳であった。 瞳が夜空の星のように煌めいているのだ。 まるで瞳の中に宇宙が存在していようだった!!

 「なんと!! なんと美しい少女なの!! 私が探していた少女はあの子に間違いないわ!!」町に到着してすぐに目的の少女に出会えたと思ったローザは、感動のあまり神に祈りを捧げた。「メスマリアよ...... あなたのお導きに感謝致します」ローザは我を忘れて跪き祈りを捧げた。

 「大丈夫かい!? シスターさん......」ローザが突然跪いて祈り始めたことに驚いて、横にいた恰幅の良い中年男性が心配して声をかけた。

 男性に声をかけられたローザは我に返り立ち上がった。 「ええ。 大丈夫です。 ちょっと感動してしまって......」ローザに目にはうっすらと涙が浮かんでいた。 

 「シスターさんはこの町の人じゃないね? セラを見るのは初めてだね?」

 「セラ? あの少女の名前ですか?」

 「ああ。 まぁ、セラを見て祈りたくなる気持ちはわかるよ。 俺なんかセラの姿を見るだけで、心が洗われるようだからね。 町の人間は大半がそうじゃないかな。 天使なのかも......」

 「天使......」男性の『天使』という言葉にローザは納得した。 確かに少女から放たれるオーラは別格である。 

 少女の前には車椅子に乗った老婆がいた。 「あの車椅子の方は?」 ローザが男性に聞いた。

 「あの婆さんは病気で歩けなくなってしまってね。 もう自分で立ち上がることも出来なくなってしまったんだよ…… でもセラの評判を聞きつけて、隣町から治してもらうためにこの町に来たんだ」

 「治す?! あの少女が病気を治すのですか?」男性の言葉にローザは驚きを隠せなかった。

 「そうだよ。 セラが奇跡が起こすから!! まぁ、口で説明するより、実際に見たらわかるよ。 見ててみな」 男性はクイっと首をセラたちの方へ動かした。 

 ローザは男性に言われた通り、セラと老婆に注目した。 集まった町の人々も注目している。

 少女は老婆の前に跪くと、老婆の足を診察するかのように優しく撫で始めた…… 真剣な眼差しで老婆の脚を調べている。 そして一通り足を撫で終わると、少女は老婆の膝の上にそっと手を置いた。 すると少女の手から不思議な光が放たれた……

 「あっ!! あの光は……?」

 その光はまるで小春日和に差す温かく優しい日差しのような光だった…… 光を見ているだけで、心身が癒されていくのを感じる。 老婆は心地良さそうにうっとりとした表情をして、今にも眠ってしまいそうであった。 

 そして少女が放った光は眩いばかりに広がっていき、広場にいるローザや町の人々の身体を優しく包み込んでいった。 光に包まれたローザは不思議な感覚を覚えた。 身体が軽くなって浮き上がり空へと昇っていく......

 「こ、、、これは現実なの......? それとも幻......?」現実とは思えない出来事にローザは自分の身に起きている事が幻なのか現実なのかわからなかった。

 ローザは周りを見渡すと町の人々もローザと同じように空へと浮き上がっていくのが見えた。 町の人々の表情は幸せに満ちた表情になっている。 

(なんて心地良いのかしら...... まるで天国に昇っていくようだわ......) ローザも幸せな気分だった。 そして光が眩しいほど輝いた瞬間、ローザは我に返った。 

 (い、、今のは一体......)我に返ったローザが辺りを見回すと、そこは先ほどの広場だった。 

 「驚いたろ? シスターさんは初めてだから無理ないけどね。 最初はみんな驚くよ。 ハハハハハハ!!」男性は面食らっているローザがおかしかったのか、大声で笑っていた。

 「これがあの子の力ですか? 一体今のは......?」ローザはまだ自分に起きた出来事が信じられなかった。

 「これだけじゃないぜ!! ほら、婆さんを見てみなよ!!」

 ローザは男性に言われた通り少女と老婆に目をやった。 少女は老婆の膝から手をそっと離し、老婆の手をとって車椅子から立ち上がるよう促した。 老婆は怖がっているのか、なかなか車椅子から立ち上がろうとしなかったが、少女が再度促すと恐る恐る車椅子から立ち上がり始めた。 すると老婆は自分の足で立ち上がることが出来た。 自力で立ち上がることができなかった老婆が立ち上がったのである。 その光景を目の当たりにした町の人々から大きな歓声が上がった。

 そして立ち上がった老婆は少女に支えられて、足元を確認しながらゆっくりと歩き始めた。 おぼつかない足取りではあるが、確実に自分の足で歩いている。 

 「どうだいシスターさん!! あれがセラが起こす奇跡だよ!! 凄いだろっ!! うおぉーーーーっ!!」男性は両手を高々と上げて吠えた。 興奮を抑えられない様子だった。

 信じられない現象を目の当たりにしたローザは、感動して震えが止まらなかった。 正直、この町に来るまでは奇跡の力という噂には半信半疑だった。 しかしこんな奇跡は見たことが無い。 まさに神が起こす奇跡そのものだとしか思えなかった。

 自分が思い描いていた神の力というものを、あの少女は実現させていたのだ。 これは現実に起こっているのだ。 

 感激した老婆は涙を流しながら少女に抱きついた。 少女の頬にたくさんのキスをして感謝の気持ちを表していた。 しかし肝心の少女は表情一つ変えていなかった。 町の人々の大きな歓声を受けても無表情のままだった。

 (あの子はなぜあんなにも無表情なのかしら......)ローザは少女が無表情のまま、一切の感情の表していないことが気になった。 神ような力を持ち、町の人々から称賛されているにも関わらず、少女は笑顔ひとつ無かった。 誇るわけでも無く、力を誇示するわけでも無かった。 無感動...... 一言で表すならそんな言葉がぴったりだった。

 そして老婆は袋からお金を取り出して少女に手渡した。 町の人も少女の前に置かれていた籠の中に次々とお金を入れていった。 

 老婆は何度も少女にお礼を言いながら隣町へと帰って行った。 広場に集まっていた町の人々も解散した。

 広場から人が去ると、少女は籠の中に入れられたお金を袋に入れてその場から足早に去っていった。 そして広場近くにあるパン屋へと入って行った。 少しして少女が沢山のパンを抱えて出てきた。 抱えたパンは近くに用意してあった荷車に載せた。 荷車には他にもたくさんの食料品が積まれている。 少女は荷車を引いて広場から立ち去って行った。

 ローザは少女の様子を静かに観察していた。 「何て凄い力を持つ子なのかしら…… あの子に会う前に少し町の人にあの子の事を聞いてみた方がいいかもしれないわね」 町の人に少女の事を聞こうと、ローザは先ほど少女が入って行ったパン屋へと向かった。

 「こんにちは……」 ローザは扉を開けてパン屋の中へ入った。 中には50歳前後の初老の男性がいた。 このパン屋の主人の様だ。

 「あの先ほどこの店でパンを買った少女について聞きたいのですが……」ローザは店の主人らしき男性に少女の事を尋ねた。

 「もしかしてシスターさん……『聖ヒプノ修道院』の人かい?」シスター姿のローザを見て男性が聞いた。

 「はい。『聖ヒプノ修道院』から来た『ローザ・フェアリー』と言います。 あの少女の事でこの町に来ました。 あの子について少し話を聞かせて頂けたらと思いまして……」ローザは男性の問いかけに丁寧に答えた。

 「そうか…… セラの事は『聖ヒプノ修道院』にまで知れ渡ったのか……」

 「この町の神父から調査の依頼がありました。 セラというのはあの子の本名ですか?」

 「本名は『セラコ』というんだ」

 「セラコ...... あの子は東洋人だと聞いたのですが?」

 「そうだよ。 日本人だ」

 「日本人!?」

 「まぁ、驚くのは無理もないかな。 セラの姿はどう見ても東洋人には見えないからね」

 「日本人のあの子はなぜこの町へやって来たのですか?」

 「それはわからないんだ。 セラも理由は一切話さないし、話したく無いみたいだよ」

 「そうですか...... あの子は親と一緒に来たのですか?」

 「いや、この町には『トキロウ』という少年と二人で来たんだ。 半年位前に、裏山の山中に身を隠していた二人を猟師が発見したんだ。 発見された時は二人ともボロボロの泥だらけでさ…… ひどい有様だった......」

 「少年と二人で...... 山中に隠れていた?」

 「ああ、そうだよ」 

 「何故二人は山中にそんな状態で身を隠していたのですか……?」

 「わからない…… セラは全く理由を話さないからね。 それにセラは酷く人を警戒していてね…… 町の人間を一切近づけさせなかったんだ」

 「なぜそんなに警戒していたんでしょうか? 山中に隠れていたということは何者かから逃げていたとか……?」

 「その可能性はあるかもしれないな。 セラは必死にトキロウを守っていたからね。 セラはトキロウには誰も近づけさせなかった」

 「セラが少年を守っていたのですか?」

 「そうなんだ。 それに野生の狼が二人を守っていたしね......」

 「野生の狼が二人を守っていた?! そんな事があり得るのですか?」

 「ああ、そうだよ。 普通は野生の狼は人に懐かない…… でも狼が二人を守っていたのは事実だ。 だから町の人間は迂闊に二人に近づけなかった」

 「狼が人を守るなんて…… でもセラの力を目の当たりにした今なら、その話も信じられるかもしれません」 

 「そうなんだ…… セラは本当に不思議な子なんだよ……」

 「セラは言葉は話せるのでしょうか?」

 「ああ、話せるよ。 あっという間に言葉を覚えたんだ。 読み書きも出来る。 ただあまり人とは喋らないけどね」

 「そうですか…… しかし、先ほどあの子が見せた力は凄い力ですね。 いつもあのように人に治療を施しているのですか?」

 「そうさ…… 多くの町の住民がセラの治療を受けて良くなったよ!!」

 「あのような凄い力を目の当たりにしたのは私も初めてです。 まさに神の奇跡と言えるでしょう」

 「神の奇跡か...... 確かにセラの力は本当に凄くてさ、最初トキロウが発見された時は衰弱が酷くてね…… トキロウをこの町の医者に見せたところ、難病に罹っているのがわかったんだ……」

 「難病ですか……?」

 「医者の話しじゃ、命に関わる難病らしいよ。 普通ならばもう死んでいてもおかしくないって医者も驚いてた。 そんな状態のトキロウが生きているのはセラが力を使って病気の進行を抑えていたかららしいよ…… 本当に奇跡の力だよ」

 「そのトキロウという少年は今はどうしているのですか?」

 「今は回復しているよ。 町のみんなでトキロウの看病をしたんだ。 セラも最初は凄く警戒してたけど、みんなでトキロウの看病をしていくうちに、セラはだんだんと町の人を信頼するようになった」

 「二人は今どこに?」

 「町外れの牧場の小さな小屋で二人で一緒に住んでいるよ…… 普段はトキロウの看病をしながら牧場で牛の世話をしている。 牧場主はセラが牛の世話をするようになってから乳の出が良くなったって喜んでるよ。 そして時々町に食料品などを買いにやって来るんだ」

 「何故町に住まないのでしょうか? 町に住む方が看病をするにも都合がいいでしょうに……」

 「それは町長も提案したんだけど、セラが嫌がってね…… 出来る限り人と関わりたくないみたいだよ……」

 「そうですか…… でも町の人にも、あのように力を使っていますね……」

 「それなんだが、初めは町のみんなで二人の生活の面倒をみようという事にしたんだけど、セラがそれを拒否してね。 でもセラがああやって町の人に力を使って治療してくれるようになったから、町のみんなでお金を払おうって決めたんだ」

 「そうですか...... 優しい子なんですね」

 「実は俺もセラに治療してもらったんだよ。 俺は戦争で肩と肘を壊してね…… パン作りも苦労する有様だったんだが、セラに治療してもらってからすっかり肩と肘の状態が良くなったんだ。 だからセラには治療してもらったお礼だからパンはタダでいいって言うんだが、セラは律儀にちゃんと料金を払っていくよ」

 「...... あの子はあまり感情を表さ無いですね...... 先ほども無表情のままでしたし。 普段からああなのですか?」

 「確かにセラは感情は全く表さないし、笑った顔なんて見た事が無い。 でも町のみんなはセラが本当はいい子だってわかってるよ。 セラを天使じゃないかって言う人もいるよ。 あの神秘的で美しい姿に不思議な力を持ってるだろ…… 俺もあの子は天使だと思ってるよ……」

 「天使…… 確かに本当に天使なのかもしれませんね」セラを一言で表現するなら、天使という言葉が一番適切だとローザは思った。

 「神父の所へは、もう行ったのかい?」

 「いえ、これから神父様の所へ伺おうと思います」

 「そうか。 もしセラの事をもっと詳しく聞きたいなら、町長と神父に話を聞くといいよ。 神父はセラの力を色々と調べていたしね」

 「わかりました。 お話を聞かせて頂き、ありがとうございました。 『メスマリア』のご加護があらんことを……」 ローザは店主に祈りを捧げ、店を後にした。

 教会へと向かう道中でローザは考えていた。 町に来てすぐに目的の少女に出会えた事も、そして少女の持つ不思議な力を体験できたことも幸運だった。 まるで何か見えない力に導かれているようだった...... それは運命なのか?...... そしてこの出会いが自身の運命を大きく変えようとしている予感がする。 異能の力を持つ少女との出会い...... それはローザにどんな運命をもたらすのであろうか?

 (まずは教会で神父様に話を聞いてみましょう……) ローザは教会へと急いだ......





 催眠聖女 ローザ・フェアリー(1)終




(2)へ続く










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この記事へのコメント

  • 久しぶりに見たら復活していますね!
    奥様は…が読みたいです!
    2020年06月09日 22:00
  • クーガ

    コメントありがとうございます!!

    こっそり復活しました(笑) 長らくお待たせしてしまって申し訳ありません。

    奥様は魔女の続き楽しみにしていらっしゃる方がいて嬉しいです!!

    続きを頑張って制作しますので、もう少しお待ちください。

    これからもよろしくお願いいたします!!
    2020年06月11日 18:21

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