『催眠聖女 ローザ・フェアリー』(27)


 「私は生きているのか......?」 カグラの部下の『白眠衆』の長が目を覚ますと、そこは病院のベットの上だった。 そして自分が生きていることに戸惑いを感じていた。 周りを見渡すと、他の『白眠衆』たちもベットにおり、全員が自分と同じように戸惑ったような表情をしていた。 『姫美島』家に伝わる秘薬、『砕眠丸』を服用すれば、高確率で副作用で命を落とす。 飲んだ全員が生きている事などはまずありえない。

 「どうやら私たちは全員無事だったようだ...... 『砕眠丸』を飲んで全員無事とは運がいい...... 皆、大丈夫か?」長が部下たちに状態を聞いた。 

 「私たちは全員大丈夫です。 どうやら狼達に囲まれた後、意識を失ってそのままこの病院に運ばれたようです......」

 「そうか...... カグラ様はどうされたのか? 世羅子を倒して、時郎様を連れ戻されたのだろうか? 誰か知らぬか?」長が部下に聞いた。

 「わかりません...... 私たちも先ほど目を覚ましたばかりですので...... どれくらい意識を失っていたのかもまるでわかりません......カグラ様もどうされたのか全く...... 何も記憶がありません」薬の副作用で記憶が定かでは無いのか、部下たちも困惑している様子だった。

 「おそらく我々はかなり意識を失っていたのだろう。 薬の副作用で記憶も混乱しているようだ。 おそらくカグラ様のことだから私たちは死んだと考え、世羅子を倒し、時郎様を連れてそのまま日本に帰られたかもしれん...... 我々は置き去りにされたのであろう......」長はどこか寂しそうな顔をしながら語った。 

 長の言葉に全員が暗い顔になった。 わかっていたこととはいえ、命をかけて主君であるカグラのためにセラと戦った。 任務に失敗したとはいえ、生死の確認もされず、そのまま置き去りにされた事はやはり寂し気持ちでいっぱいだった。

 『白眠衆』は皆、やるせない気持ちでいっぱいだった。 病室はもの哀しい沈黙に包まれた...... 

 『白眠衆』たちが気落ちしていると、突然病室の扉が開いた。 扉から入ってきたのは何とトキロウだった。 

「と、時郎様?!』『白眠衆』たちは病室に入ってきたのがトキロウであった事に驚きを隠せなかった。 カグラによって日本に連れ帰させられたと思っていたからだ。 トキロウはなぜ、まだこの国にいるのだ? 『白眠衆』たちは状況が飲み込めないでいた。

 「みんな目を覚ましたんだね!! 全員無事で良かったよ!!」トキロウは病室に入るなり、『白眠衆』が全員無事に目を覚ましているのを見て安心したのか、和かに微笑んだ。

 病室に入ってきたのがトキロウであった為『白眠衆』たちは慌ててベットから出て、トキロウの前に跪こうとした。

 「ああ〜...... いいよ、そんなことしなくて!! まだ、病み上がりなんだから無理しないでよ......」トキロウは跪こうとした『白眠衆』たちに向かって両手をバタバタと振って制止した。

 しかし、トキロウの制止を聞かず、結局『白眠衆』たちは全員ベットから出て、トキロウの前に跪いてしまった。 トキロウは制止も聞かず自分の前に跪いた『白眠衆』を見てやれやれといった困った表情を浮かべた。 こういう堅苦しい風習をトキロウは好きでは無かったからだ。

 「時郎様、お久しぶりでございます。 時郎様がご無事であったこと、我ら『白眠衆』一同、何よりも嬉しく思います!!」

 「あ、ありがとう...... 僕も久しぶりにみんなにあえて嬉しいよ!! それにしても任務の為とはいえ、『砕眠丸』を飲むなんて無茶な事をして...... それに母さんも母さんだ!! 命をかけた部下を置き去りにしていくなんて、本当に部下をなんだと思っているのか!! 自分の母親ながら呆れ返るよ!! 全くもう......」トキロウはカグラが『白眠衆』を置き去りにして帰国したことに腹を立てていた。

 「時郎様。 なぜ、まだこの国にいらっしゃるのですか? カグラ様と日本に帰られたのではないのですか?」

 「母さんは五日前に日本に帰ったよ。 僕はそのままこの国に残ったけどね。 日本に帰るつもりはさらさら無いよ」

 「カグラ様は五日前に日本に帰られたのですか? なぜ、時郎様を連れて行かれなかったのでしょうか? カグラ様は時郎様を日本に連れて帰るために、この国まで来たのに...... 一体なぜ?」『白眠衆』は理解出来なかった。 そもそも時郎を連れ帰るために、遥々この国までやってきたのに、カグラはなぜその目的を果たす事なく日本に帰ったのか? まるでわからなかった。

 「ああ、それね。 いろいろうるさい事言ってたけど、世羅子と引き分けた事で諦めたみたいだよ。 全くこんなところまで追っかけてくるなんて、いい迷惑だよ。 放っておいてくれればいいのに、町の人にまで迷惑かけて自分勝手も程々にしてもらいたいよ。 でも世羅子に追い返されたようなもんだから、ちょっとスカッとしたけどね!! あははは!!」トキロウは痛快といった様子で笑った。

 「引き分けた......? カグラ様と世羅子は引き分けたのですか? カグラ様が撤退したなどとは、到底信じられません......」トキロウの話を聞いた『白眠衆』たちは全員が驚愕した。 

 「そうだよ。 信じられないのも無理は無いけどね。 まぁ、勝負は痛み分けっていったところかな。 凄い勝負だったけど、世羅子の力が想像以上だった事で、さすがの母さんも簡単には倒せないと思ったみたいだよ。 勝負は次回にお預けになったんだ。 それでそのまま撤退したよ」

 「あのカグラ様と痛み分けとは...... カグラ様のお力を持ってしても世羅子は倒せなかったのか...... 時郎様、では世羅子は今どうしているのですか?」

 「世羅子は寝てるよ。 母さんと戦った後、みんなを助けるために力を使い果たして倒れたんだ。 みんなの命を救ってくれたのは世羅子だよ...... みんなを救うために懸命に治療してくれたんだ。 世羅子に感謝してね」 

 「では、私たちは世羅子に命を救われたという事なのですね......」敵であったセラに命を救われた事実を聞いて『白眠衆』たちは複雑な表情を浮かべた。 

 「もう命を粗末にしちゃ駄目だよ。 いくら母さんの為にとはいえ無茶が過ぎるよ...... せっかく助かった命なんだから、これからは大事にしてね。 僕なんか、いつ病気で死ぬかわからない身体なんだよ...... 生きていたくたって出来ないんだからさ......」トキロウは『白眠衆』たちに命を粗末にしないよう言い聞かせた。 不治の病と戦うトキロウだからこそ、この言葉には説得力があった。

 トキロウの言葉が『白眠衆』たちの胸に突き刺さった。 そして『白眠衆』たちは目に涙を浮かべ始めた。 

 「時郎様...... 私たちはこの国に来て時郎様の元気なお姿を拝見した時、本当に...... 本当に嬉しい気持ちでいっぱいでした。 本来ならば、すぐにでもご挨拶に伺わなければならないところを、任務のためずっと隠れて様子を伺っていた無礼を、どうかお許しください......」長が大粒の涙を流しながらトキロウに詫びた。 

 「気にしないでいいよ...... みんなも任務があったんだから仕方がないさ。 僕は気にしてないから、みんなも気にしないで。 本当にみんなは生真面目なんだから。 もうちょっと気楽に行こうよ!! 気楽にさ!!」トキロウは泣きながら詫びる『白眠衆』を気遣うように、あえて明るく振る舞った。

 「時郎様......」自分たちを気遣うトキロウの優しい心遣いに『白眠衆』たちは感激した。 トキロウの優しさが、任務を果たすことができず、またカグラに置き去りにされた事で傷ついた心に染み渡る。 トキロウは昔から優しかった。 そんな優しいトキロウが病で苦しんでいる姿を見て『白眠衆』たちはいつも胸が張り裂けそうなほど辛かった。 母であるカグラが、トキロウを見捨てている事は知っていた。 そんなトキロウを不憫にすら思っていたが、この国に来てトキロウの元気な姿を見て『白眠衆』たちは本当に嬉しかった。

 「じゃあ、僕はこれから世羅子の様子を見てくるから、みんなはゆっくり休みなよ。 みんなは僕の友達だと、町の人に言ってあるから安心して養生してね。 決して早まった事だけはしないように......」トキロウは『白眠衆』たちが早まった事をしないよう釘を刺した。 生真面目な『白眠衆』たちは任務が失敗に終わった責任を感じて、責任を取ろうとする事をわかっていたからだ。 

 「...... あの、時郎様...... 世羅子もここにいるのですか?」

 「いるよ。 ずっと寝てるんだ。 力を使い果たすと、しばらくは眠り込んでしまうんだ。 今回はいつもよりも長く眠り込んでいるけどね.....  よっぽど疲れたんだと思うよ」

 「そうですか...... 世羅子もここに...... 時郎様、私たちへのお心遣い本当に感謝いたします!! この御恩は必ずお返しいたします」

 「いいって気にしないで!! 僕も久しぶりにみんなに会えて嬉しかったしね!! じゃあ、僕は世羅子の所にいってくるね!! またあとで来るから......」そういってトキロウは病室から出て行った。

 「時郎様...... 本当にありがとうございます!!」『白眠衆』たちは病室から出て行ったトキロウに向かって深々と頭を下げた。

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 トキロウは『白眠衆』たちの病室を出たあと、同じ病院にいるセラの病室へと向かった。 セラはカグラとの戦いの後、『白眠衆』の治療を行い、そのまま倒れ込んでずっと意識が戻らない状態であった。

 トキロウがセラが寝ている病室に入るとローザがセラの看病をしていた。 ローザはセラが倒れてからずっと付きっきりでセラの看病をしている。 トキロウは自分がセラの看病をすると言ったが、ローザがトキロウの身体を心配して代わりに看病をしてくれると言ってくれた。 それは万が一、セラが寝ている間にトキロウの容体が悪くなった場合の事を考えてのことだった。

 「世羅子はまだ目を覚ましませんか?」トキロウがローザにセラの様子を聞いた。

 「相変わらず寝てるわ...... よほど力を振り絞ったんでしょうね......」ローザはセラの寝汗を拭いながら言った。

 「でしょうね...... 町の人たちに襲われ、『白眠衆』と戦い、神父様を助けて母さんと戦い、まして戦いの後に『白眠衆』の命まで救ったんですから...... いくら世羅子でも倒れますよ。 まだしばらくは目を覚まさないでしょうね......」

 「そうね...... あれだけ壮絶な戦いの後に『白眠衆』の治療まで行なったんですものね。 トキロウさん、『白眠衆』はどんな様子だった?」

 「みんな目を覚ましました。 あの様子じゃもう大丈夫そうです。 でも、みんな任務を果たせなかったんで、随分と落ち込んでましたけど...... 一応、早まった事はしないように言っておきました」

 「そう...... 『白眠衆』もみんな無事だったのね。 それは良かったわ!!」ローザも『白眠衆』が無事だった事を聞いてホッと胸を撫で下ろした。

 「本当に良かったです!!『砕眠丸』を飲んだら、副作用でかなりの確率で死んでしまいますから、世羅子が治療してくれなかったら、おそらくみんな死んでいたかも知れません。 全員助かったのは世羅子が治療したおかげですよ!!」

 「でも、『白眠衆』たちはこれからどうするつもりなのかしら? やはり日本に帰ることになるの?」

 「う〜〜ん、どうでしょうか......? このままこの国にいるわけにもいかないでしょうし、まして母さんは『白眠衆』は全員死んだと思っているはずです。 それにもし日本に帰っても任務を果たせなかった『白眠衆』たちを母さんが許すかどうか、それが一番心配です...... 母さんの性格なら許さない可能性が高いかもしれないです......」

 「そんな...... 命をかけて任務を果たそうとした部下を、任務を果たせなかったからといって許さないなんて、そんな酷い話は無いわ!!」ローザはそんな理不尽な事はありえないと思った。  

 「ローザさんもわかったと思いますが、母さんはそういう人間です。 自分の事しか考えていません。 部下なんて使い捨てみたいにしか思っていないはずです...... でなきゃ、瀕死の部下をそのままにして自分だけ帰るなんてしないですよ」トキロウは呆れたような口ぶりで言った。

 「そうね...... その通りだと思うわ......」ローザはトキロウの言葉に納得せざるをえなかった。 カグラを目の当たりにして、ローザもカグラの人間性を良く理解できたからだ。 見ず知らずの他人を操り、まして命の危険がある術まで使うカグラなら自分の部下に厳しい罰を下したところで、何とも思わないであろうと......  『白眠衆』が悲劇的な末路を迎える事になるのは火を見るより明らかだった。

 「僕もどうしたらいいのか迷ってます...... 『白眠衆』が母さんの命令とはいえ、世羅子の命を狙ったことは事実です。 このままこの国に居させるわけにもいかないし、世羅子に命を救われて、おめおめと日本に帰れば母さんから罰を受けるのは間違えないでしょうから、本当にどうしたらいいのものか......」トキロウは『白眠衆』の処遇について頭が痛かった。 このまま日本に帰れば間違いなく罰を受けるはずだけに、何とかいい方法がないかと頭を悩ませた。

 「トキロウさんが悩む気持ちは良くわかるわ...... とりあえず今は『白眠衆』の回復と、セラの看病を優先して、あとで考えましょう......」

 「そうですね。 今はその方がいいと思います。 世羅子が目覚めれば、何かいいアイデアを考えてくれるかもしれないですし......」

 「世羅子なら、きっと『白眠衆』を救ういいアイデアを考えてくれるわよ!! 私は花瓶の水を変えてくるから、トキロウさん、少しの間世羅子を見ててね」

 「わかりました。 任せてください」

 ローザは花瓶の水を変えに病室を後にした。 病室はトキロウとセラの二人だけになった。 トキロウはベットで寝ているセラを見た。 セラは美しい寝顔で寝ていた。 トキロウは美しいセラの寝顔にしばし見惚れていた。 カグラとの戦いに向かうセラを見た時、もうセラに会えなくなるのではないかと不安だった。 しかしこうしてまたセラの美しい寝顔が見れたことが心底嬉しかった。

 「本当に世羅子の寝顔はいつ見ても綺麗だなぁ〜...... それにしても全く目を覚ます気配がないな。 お〜い、世羅子ぉ〜〜!!」トキロウは寝ているセラに声をかけたが、セラは全く反応しなかった。

 「駄目だ...... 全然反応が無いや。 こんなに寝ているのは初めてだな。 いつもは三日位で起きたのに、もう五日も眠りっぱなしだもんな。 よっぽど力を使い果たしたんだろうな......」以前も力を使い過ぎて眠り続ける事はあったが、これほど長くは無かった。 やはりカグラとの戦いでかつて無いほど力を使ったのだろうとトキロウは思った。 

 トキロウがセラの寝顔を眺めていると、ふとセラの唇に意識がいった。 そしてセラの薄くほんのりとピンク色をした唇を見たトキロウはセラと初めて交わしたキスの事を思い出した。 カグラとの戦いの前にセラと交わした初めての口づけ......

 その初めての口づけの感触は今まで感じたことのない甘美な感触だった...... セラの唇は柔らかく、甘い香りがした。 トキロウは疑問に思った。 どうしてセラの唇はあんなにも柔らかく、甘い香りがするのか?

 (世羅子はいつもいい匂いがするけど、なんでなんだろうな? 何もつけていないのに甘い匂いがするんだよなぁ......) セラはとてもいい匂いがする。 香水をつけているわけでもなく、化粧もしていないので、口紅などもつけていない。 何一つ特別な事はしていないセラだが、なぜかいつもいい匂いがする。 トキロウは不思議に感じていた。

 そんな風に疑問に感じていたトキロウは胸が高鳴ってきた。 (も、もう一回確かめてみようかな......)トキロウはもう一度セラの唇の感触を確かめてみたいという衝動がふつふつと湧いてきた。

 セラは寝ている。 今なら確かめられるのではないか? セラが目覚めたら、もう一度キスをしてくれる保証は無い。 あの時は特別な状況で、セラもいつも以上に感傷的になっていた。 確かめるチャンスは今しか無い。 

 (よ、よし!! 今なら世羅子も寝てて気付かれないだろうし、誰もいないから大丈夫だ!! やるなら今しか無い!!)トキロウは意を決した。 そして辺りを見回して誰もいない事を確認し、トキロウは寝ているセラの唇に向かって、自分の唇を近づけ始めた。 もう一度あの感触を味わいたい。 トキロウは生唾をゴクリと飲んだ。

 (ごめんよ、世羅子......)トキロウは心の中でセラに詫びながら、自らの唇をセラの唇に近づけていく...... そして後少しで唇同士が触れ合う瞬間、突然”バチーン”という音と共にトキロウは頬に引っ叩かれたような衝撃を感じた。

 「いったぁぁぁっ〜〜!!」頬を引っ叩かれた衝撃を感じたトキロウは痛みで思わず頬を押さえた。 突然の出来事に驚いたトキロウはセラを見た。 なんとセラが目覚めている。 トキロウの頬を引っ叩いたのはセラだった。

 「せ、、、世羅子ぉぉぉっ!! 起きてたのっ?!」トキロウはセラが目覚めていたことに驚きを隠せなかった。 まさかセラはずっと起きていたのか?

 「起きてないわ!! ただ、なんか嫌な気配がしたから目が覚めたのよ!! 私に何をしようとしてたの?」セラはトキロウを睨みつけた。 睨み付けるその目は完全に怒っている時のセラの目であった。 キスそしようとしたことがセラにバレているのか?

 「な、何もしようとしてないよ...... ただ、ちょっと様子をみようと思って顔を覗いただけだよ......」セラが怒っているのを見て、トキロウは必死に誤魔化した。 

 「嘘っ!! 私が寝ている隙にキスしようとしてたんじゃないの? 人が寝ている隙にキスするなんて最低!!」セラはトキロウが寝ている隙にキスをしようとした事に、相当ご立腹な様子だ。 

 「誤解だってば...... なんかうなされてたから、心配になって顔を覗き込んだだけだよ!! それにこの前はキスしたじゃないか? 何もそんなに怒らなくてもいいじゃないか......」激しく怒るセラにトキロウは必死で弁明した。 

 「この前キスをしたからといって、人が寝ている隙にキスをしていい理由にはならないわ!! 調子に乗ってすけべ心出さないで!! 絶対に許さないから!!」トキロウが必死で弁明するもセラの怒りは収まらなかった。 セラの怒りの炎にさらに油を注いでしまったようだ。

 「そんなに怒らないでよ...... ちょっとした出来心だったんだってば。 謝るから許してよ...... 本当にごめんなさい......」セラの怒りの炎に油を注いでしまったトキロウはセラに必死で謝まった。 セラの怒りの迫力は凄まじく、カグラとの勝負の時以上に感じる。 こうなったらもうひたすら謝るしかないとトキロウは考えた。

 「何が出来心よ、この不埒者!! やっぱりキスしようとしてたのね!! この嘘つき!! 私に嘘つくなんて......」トキロウがキスをしようとした事を認めたが、誤魔化すために嘘をついた事がセラは許せなかった。 セラは拳を握りプルプルと震わせている。 今にもトキロウに殴りかかりそうな勢いであった。

 「ひいぃぃぃ!! 本当に...... 本当にごめんなさい...... お願いだから許してください!!」セラが殴りかかりそうな様子を見て怖くなったトキロウは、すぐに土下座をして床に頭を擦りつけながらセラに詫びた。  

 トキロウが土下座をして詫びていると、病室の扉が開いた。 病室にローザが戻ってきたのだ。 「あら? 世羅子、目が覚めたのね!! 良かったわ!! でも何かすごく怒っているみたいだけど何かあったの? トキロウさんもどうして床に座っているのかしら?」ローザはセラが目覚めていたのを見てホッとした。 しかし目覚めたセラはなぜか険しい表情をしており、トキロウは何かに怯えているように床に座っている。 その奇妙な光景を見てローザは疑問に感じた。

 「トキロウが私が寝ている隙にキスをしようとしたのよ!! それで目が覚めたの!!」セラがローザに事情を説明した。 

 「まぁ、トキロウさんがキスを......? それでセラが怒っているのね......」ローザは不思議そうにトキロウを見た。

 「ち、違うんですよローザさん!! 世羅子がうなされていたので、様子をみようと顔を覗いたら、世羅子は僕がキスすると勘違いしたんですよ...... 嫌だなぁ、世羅子は寝ぼけて...... あはははは!!」トキロウは笑って誤魔化した。

 「最低!!」笑って誤魔化そうとするトキロウにセラは怒りを通り越して呆れ果てた。

 「フフフ...... 二人とも本当に仲が良いわね!! 喧嘩するほど仲が良いものよ。 でもセラも大丈夫そうで安心したわ。 五日間も寝続けていたのよ」ローザは二人のやりとりを微笑ましく感じた。 平和だからこそ、こういったやりとりが出来るのだ。 

 「五日間も...... 私はそんなに寝ていたんだ......」 セラは自分が五日間も眠り続けていた事に少し驚いた様子だった。

 「ええ...... カグラとの戦いから五日経ったわ。 よほど力を振り絞ったのでしょうね。 それだけ眠るのも無理も無いわ...... でも、元気そうで安心したわ!!」ローザはセラが何事もなく無事に目覚めたのを見て安心した。 

 「カグラは?」

 「あれから一切姿を見せていないわ。 どうやら本当に日本に帰ったみたい。 あの戦いからは何事も起きていないわ。 平和そのものよ」カグラはあの戦いから一切姿を見せていない。 カグラの脅威は完全に去ったとみて良いだろう。

 「町の人や神父様は?」

 「カグラに操られていた町の人たちは全員無事よ。 町の人はみんな操られていた記憶が無いらしいの。 それに神父様も無事よ。 今はすっかり元気になったわ!!」

 「そう...... 『白眠衆』はどうなったの? まさか誰か死んだとか......」セラの表情が曇った。

 「いいえ。 『白眠衆』は誰も死んでいないわ。 あなたの治療のおかげで全員助かったわ。 さっき全員が意識を取り戻したところよ......」

 「そう......」『白眠衆』が全員無事と聞いて、曇っていたセラの表情が少しホッとしたような表情に変化した。 やはり気になっていたのだろう。

 「でもあれだけの騒動で、みんな無事だった事は本当に奇跡だわ!! それも全てあなたのおかげよ、世羅子...... やはりあなたは『奇跡を起こす少女』だわ!!」今回、町を巻き込んだ大事件だったが、犠牲になった人間は一人もいなかった事をローザは奇跡だと感じていた。 そしてその奇跡を起こしたのは、紛れもなくセラの力だと思っていた。 セラは町の人だけでなく、敵である『白眠衆』の命をも救ったのだ。 セラのその高潔な精神にはただただ感心するしかなかった。

 「ローザ...... お願いがあるの?」セラが神妙な表情でローザに何かを願い出た。 一体、セラは何をローザに願おうというのか? 

 「何かしら? 出来る事ならなんでも言って?」セラの神妙な表情にローザはただ事では無いと感じた。 セラが自分に頼み事をするという事はよほど何かあるのだろう...... ローザは思わず緊張した。

 「わたし......」セラが言いかけたが口籠った。

 「なに? 遠慮なく言って?」

 「わたし...... お腹空いた......」セラが恥ずかしそうに言った。 

 「えっ?!」セラの意外な願いにローザは思わずきょとんとなった。

 「すごくお腹すいたの...... 何か食べたいわ......」

 「そ、、、そうね...... 五日間なにも食べてないんですものね!! それはお腹も空くはずだわ。 待ってて。 今、何か食べ物を持ってくるから......」ローザは食事の用意をするため急いで病室から出て行った。

 「ぼ、、、僕も手伝います!!」トキロウもこれはチャンスとばかりに、急いでローザの後を追っかけて行った。 これで、何とか切り抜けられる。

 「待ちなさい時郎!! まだ話は終わってないわ!!」そそくさと逃げるトキロウに向かってセラが叫んだ。 セラはまだ腹の虫が収まっていない。

 ローザはすぐに食事の用意をして病室へと戻ってきた。 セラは用意された食事を瞬く間に食べてしまった。 「まだ全然足りないわ......」セラは用意された分だけでは全く腹が満たされなかった。

 ローザとトキロウは、慌てて追加の食事を用意した。 セラの食欲は凄まじかった。 「世羅子、そんなに食べて大丈夫......? いきなりそんなに食べたら身体に悪いわよ......」セラの異常な食欲にローザも心配になった。

 「世羅子がこんなに食べるのは僕も初めてみました......」トキロウもセラの異常な食欲に驚いていた。 どちらかといえばセラは少食で、普段はあまり食べない。 そのセラが異常な食欲を見せている。 セラは用意された大量の食事を黙々と食べ続けていた。 

 一体、セラの身になにが起きているのか? ローザとトキロウは不安になった......





「催眠聖女 ローザ・フェアリー」(27)終




(28)へ続く

  












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