『催眠聖女 ローザ・フェアリー』(29)


 セラが目覚めてから一週間後、アンソニーがローザと共にトキロウとセラが住む小屋へと訪れてきた。 アンソニーの来訪目的は、ある提案を二人にする為だった。

 「え?! 僕たちが”王宮”へ......」アンソニーからの提案にトキロウは驚愕した。

 「そうなんだ。 二人を王宮に住まわせる方が良いというのが、国王陛下と王妃の考えなんだ。 今回の一連の事件は国王陛下にはもちろん報告してある。 先日ローザから、またカグラがやってきた時の対策を相談されたので、国王陛下に相談したんだ。 そして国王陛下と王妃と僕が話し合い、二人を王宮に住まわせるのが一番良いだろうと判断したんだ」アンソニーがことの成り行きを説明した。

 「僕たちが王宮へですか......」思いも寄らない提案にトキロウは困惑した様子だった。 トキロウとは対照的にセラは特に驚いた様子は見せていなかった。

 「私もその提案には賛成よ。 やはりカグラがまたやって来る可能性が高い以上、この町だけでは対応は難しいと思うわ。 ましてカグラは手段を選ばないでしょうから、次は町の人たちにもっと被害が及ぶ可能性も考えられるし...... 町の人たちの安全を優先した方が良いと思うの......」

 「確かにそうですね...... 母さんのことだから、もっと手段を選ばない卑劣な手で町の人たちに被害を及ぼすでしょうし..... 町の人たちの安全を考えれば、その方が良いとは思います」トキロウはローザの意見に同意した。 カグラが手段を選ばない人間であることは、先日の件で証明されている。 犠牲者は極力出さないようにしたいと思うのはトキロウもローザも一緒の気持ちだった。

 「王宮に入れば警備も厳重だし、ましてこの国の王族の住む王宮に攻撃をするような事をすれば外交問題にもなりかねない。 いくらカグラでも、そうそう手を出すのは難しいだろう。 まして国王陛下も今回のカグラの暴虐無人な振る舞いには大変ご立腹だ。 他国に来て、その国の人間を傷つける行為は絶対に許す事はできないと怒っておられた。 国王陛下は外交筋を通じて、カグラの行為に対し日本政府に抗議をするとおっしゃっていた。 僕もカグラの振る舞いには腸が煮えくり返る気持ちだよ。 次にやってきた時には、それ相応の報いを受けさせるつもりだ!!」アンソニーはカグラへの怒りを露わにしていた。 この国の皇太子として、国民を傷つけるような行為をしたカグラを許すことは到底出来ない。

 「すみません...... 母のせいで国王陛下を怒らせてしまって...... 僕はどうお詫びしたら良いのか......」トキロウは実の母親であるカグラの傍若無人な振る舞いに責任を感じていた。 たとえ親子関係は破綻しているとはいえ、カグラは実の母親である。 この国に逃げてこなければ、町の人たちを傷つけることは無かったろう。 

 「トキロウは何も悪くないよ!! 謝る必要は無いさ。 むしろ国王陛下はトキロウとセラを守ろうと考えて王宮に入るように提案したんだ。 二人の事をこの国の大事な国民だと思っておられるから、トキロウが責任を感じる必要は無いよ!! 気にしないでくれ...... 君は僕の弟のような存在なんだからね」アンソニーは責任を感じているトキロウを庇った。 トキロウに責任は無いことはカグラとトキロウのやりとりをみて十分に理解している。 

 「ありがとうございます!! そう言ってもらえると救われます!!」トキロウは自分を庇うアンソニーに深く感謝した。

 「セラはどう思う? 君はカグラは暫くはやって来ないと思っているとローザから聞いたよ。 君の考えを聞きたい?」アンソニーはセラに意見を求めた。 やはりカグラのことを一番理解しているのはセラだろう。 だからセラの見解は何よりも重要であると感じている。

 「カグラは暫くは来ないわ。 ただ、私たちの監視はするはず。 カグラからすれば、一番嫌なのは私たちがどこに行ったかがわからない事だから、近いうちに監視の為の間者を送りこんでくるでしょうね。 ただ、私は王宮に入るのは賛成するわ。 やはり町の人たちの安全を第一考えた方がいいと思う。 カグラは手段を選ばない人間だから、次にやって来たときには町の多くの人たちが犠牲になるかのしれない」

 「なるほど...... セラも王宮に入ることには賛成か...... 王宮に入れば警備も厳重だから間者も活動は難しくなる。 やはり王宮に入るのが一番良い選択だね。 それとカグラはどの位はやってくることはないと予想している?」 

 「正確なことは言えないけど、カグラは日本に帰って修行をするはず。 今以上の力を身につけるには最低でも二年はかかると思う。 それまではやってこないとは思うけど......」

 「二年か...... それなら対策も立てられるな。 セラ、君は力をつけて再びやってきたカグラと戦って勝てると思っているのかな?」

 「カグラに勝たなければ、私たちに未来は無いわ。 次にカグラと戦う時こそ、必ずカグラを倒すわ!!」セラは力強く答えた。

 「そうか!! さすがセラだ。 安心したよ。 それなら王宮に入ることで話を進めよう」 

 「でも懸念はあるわ。 私たちが王宮に入れば、常にカグラに居所や行動を知られることになる。 カグラからすれば、私たちが何処にいるのかさえわかればいいのだから、逆に都合が良い部分もあるわ。 それに私たちはカグラの動きがわからないことが問題よ。 カグラがどう動いているのかがわかれば対策も取りやすい筈だけど...... 現状ではそれは難しい」

 「そうだよな。 母さんの動きがわかれば、それに合わせて対策も立てられるんだけど、母さんの動きを知る術が無いもんなぁ......こちら側にも『白眠衆』みたいな諜報の専門家がいれば助かるんだけど......」

 「そういえば、『白眠衆』が病院から消えたそうだけど、その後の行方は何かわかったのかい?」

 「いえ、全くわからないんです...... 本当に何処に行ってしまったのか? 僕も心配なんです......」

 「やはり日本に帰った可能性が高いのかな?」

 「だと思いますが...... ただ、日本に帰っても母さんから酷い仕打ちを受けるだろうから、それもどうかと......」

 「そうか? 僕は『白眠衆』たちから色々と聞きたいことがあってね。 この国に入った経緯や、活動内容などを詳細に聞きたかったんだ。 東洋人でありながら、異国で誰にも気づかれることなく諜報活動をしていた『白眠衆』の諜報能力に非常に興味があってね。 もしかして『白眠衆』は噂に聞く”忍者”なのかい?」

 「そうです。 『白眠衆』は忍者の末裔です。 昔から『姫美島』家に仕えていて、主に諜報活動をしています。 母さんは分家の監視のために『白眠衆』を使って監視をしていました。 もともとは『姫美島』に敵対する者たちの監視が目的だったんですが、母さんは疑り深いので分家の監視に使っていたんです」

 「なるほど...... ”忍者”の末裔なのか...... それならあれほどの諜報能力があるのも納得できるな。 それと今の話に出てきた『姫美島』に敵対する者たちっていうのはどんな存在なんだい?」

 「敵対する存在は今は滅びました。 長い間『姫美島』と対立していたらしいのですが、だいぶ昔に滅んだと聞いています。 僕もその者たちの詳細については、よく知らないんです。 『姫美島』の中でも極秘の扱いになっていて、当主にしかその存在の正体は伝えらていません」

 「そうか...... 『姫美島』は二千年以上の歴史があるという話だから、過去には色々とあったんだろうね。 この国も色々と問題を抱えている。 やはり一番の問題は隣国との領土を巡っての争いだろう......」

 「隣国と領土で揉めているんですか? 僕はこの国の事情には詳しく無いので......」

 「トキロウが知らないのは無理もないが、隣国とはある地域を巡ってお互いが領土を主張しあっているんだ。 いわゆる”係争地”というやつだね。 その地域を巡って、過去に何度か衝突をしたことがあって、いまだに解決はしていない。 隣国はこの国とは宗教も違うし民族も違う。 この国にも隣国の民族も多く住んでいるし、隣国にも我が国の民族は多く住んでいる。 歴史的にも、その地域はお互いにとって重要な地域だけに譲ることは出来ない。 今のところは解決策がないのが現状なんだ。 ただ、いつ武力衝突が起こるかわからないから、常に隣国の情報を入手しておく必要があってね。 この国にも諜報機関はあるが、それほど能力は高くない。 情報収集能力の良し悪しは国の安全保障にも大きく関わる問題だから『白眠衆』の諜報能力に興味があったんだ」

 「そういう事だったんですか...... この国も複雑な事情を抱えているんですね...... みんなが争いをやめて仲良くして行けばいいとは思うけど、それも簡単には行かないですよね...... 母さんを見るとそれがよくわかります」

 「立場が違えば、考え方や主張も変わってくる。 僕らから見ればカグラはセラを一方的に敵視しているように見えるが、カグラ側からすればそうは見えない。 絶対的な正義なんてないんだよ。 話し合いの通じない相手だっている。 だから力を持たなければ、相手にやられるだけだし、自分の大切なものを守ことも出来ない。 セラはその事をよく理解しているから、自分の力を磨いて、カグラとの戦いに備えていただろう...... トキロウやみんなを守るために......」

 アンソニーの言葉にセラはく頷いた。 カグラは話し合いなど通じる相手ではない。 そのカグラから大切なものを守ためには、自らが強い力を持つしかないのだ。

 「そう思います。 確かに母さんは話し合いが通用する相手じゃありませんから...... 有無を言わさず攻撃をしてきましたし、話し合いをしようなんて気はさらさら無かったですね......」トキロウはどこか寂しげに言った。 セラとカグラが和解してくれることを望むが、その方法は現状では考え付かない。 どちらかの存在が消えるまで解決しないことに虚しさのようなものを感じた。

 「トキロウ...... もちろん話し合いで済むならそれが一番良いことなのは僕もわかっている。 ただ、力の有るものが、力の無いものと肩を並べて平等に話し合いをすることなんてまずあり得ない。 だから相手と同じ土俵で話し合いをするためには、相手と同じくらいの力が無ければ話し合いすらままならないのが現実なんだよ...... 残念だけどね......」

 「わかります。 そのためにはやはり王宮に入るのが一番ですね......」

 「二人とも理解してくれて嬉しいよ!! 国王陛下もさぞ喜んで下さるだろう!!」

 「色々とありがとうございます!! あとローザさんはどうするんですか? 僕たちがこの町から王宮に入ったら、ローザさんも一緒に入るんですか?」ローザはセラの調査のためにこの町にやってきた。 そのセラが王宮に入ったらローザはこの町にいる意味がなくなる。 トキロウはローザがどうなるのか気になった。

 「それは...... その......」トキロウに問われたローザは何故か口籠もった。 顔を赤らめながらアンソニーの方を見る。

 「ローザ、二人には話しておいたほうがいいと思うよ」

 「そうね...... 二人には先に話しておいたほうが良いわね......」

 「どうしたんですか? なんかもったいつけて? 二人の雰囲気が何か変に感じます......」トキロウはローザとアンソニーの間に何か妙な雰囲気を感じた。 

 「じ、、、実はね...... 私たち結婚することになったの...... 先日、アンソニーから結婚を申し込まれて、その申し出を受けたわ......」

 「えええっ!? 二人は結婚するんですか!! 驚いたなぁ〜〜〜......」ローザとアンソニーが結婚することを聞いたトキロウは目を丸くして驚いた。

 「まだ正式に決まったわけじゃないから内緒にしておいてね。 王族と結婚するのは色々と面倒なことも多いから、きちんと決まるまでは発表は控えているの...... まだ結婚には少し時間がかかると思うわ」

 「でも、ローザさんがアンソニーさんと結婚するということは、ローザさんはこの国の”王女”になるんですよね?! 将来は王妃様になるんでしょ? 素敵じゃないですか!! ローザさんは王女様にピッタリですよ!!」

 「そんな...... 私が王女なんて......」ローザは照れているのか顔を伏せてしまった。

 「世羅子もそう思うだろ?」

 「そうね......」セラは興味が無いのか素っ気なく返事を返した。

 「なんだよ...... そんなに冷めた返事でして。 君はローザさんとアンソニーさんが結婚するのが嬉しくないのかい? 君は本当に可愛い気が無いんだから...... 全くもう......」素っ気無い返事をするセラに、トキロウは少し不満気味だった。

 「......」トキロウが不満気味な態度を見せてもセラは何も答えなかった。 

 「良いのよ。 セラも大変だったんだから、あまり責めないであげて..... セラだって内心は喜んでくれてるはずよ!!」ローザはセラを庇った。 セラも激しい戦いの後だけに、精神的にも色々と疲れているのだろうと思った。 少しは気が休まる時間だって必要だろう。 無関心になりたくもなるはずだ。

 「そうだといいんですけどね...... でも結婚したらローザさんは『聖ヒプノ修道院』から離れることになるんですか?」

 「いいえ、『催眠聖女』として嫁ぐことになるわ。 『催眠聖女』はマザー以外は結婚に制限は無いの。 結婚して『催眠聖女』を続けるも、やめるも本人次第なの。 大抵はそのまま『催眠聖女』としての活動を続けるわ。 私も結婚しても『催眠聖女』としての活動をやめるつもりはないわ。 それにアン王妃もいらっしゃるから、より積極的に活動をする事になると思う」

 「そっか!! アン王妃も『催眠聖女』でしたね!! マザーは結婚に制限があるんですか?」

 「マザーだけは独身で無ければならないと戒律で決まっていて、マザーに選ばれた者が結婚していた場合には離婚をすることになるの。 マザークレアも結婚されていたけど、マザーになると同時に離婚されたわ...... 残念ながら家族と離れ離れになってしまったのよ」

 「厳しいですね...... 家族と離れ離れになるなんてマザークレアも辛かったでしょうに......」

 「マザーの権威は絶大である以上、独身で無ければならないのは仕方が無いことなのよ...... 歴代のマザーたちもそうやって『聖ヒプノ修道院』の格式と権威を守ってきたのだから、マザーになる者はその伝統を受け継ぎ、守っていく義務があるの。 『聖ヒプノ修道院』は他のどの権力にも影響されない絶対不可侵の権威を持たなければならないから、そうして厳しく戒律を守っていく必要があるわ......」

 「そっかぁ...... 『姫美島』家の世襲制とは反対なんですね。 逆に誰でもマザーになれるチャンスがあるのはとても良いと思います。 『姫美島』は基本的に本家の血筋しか当主になれないから......」

 「血統による世襲によって『姫美島』家はその権威を守り続けてきたのね。 方法は違うけど、本質は同じじゃないかしら? 両方に良い部分もあれば、悪い部分をあるわよ。 どちらが良いというわけではないわ。 ただ、長い間守られてきた志を守っていくことが大事だと思うの。 『聖ヒプノ修道院』も『姫美島』もそれは同じだと思うわ」

 「そうですね!! 僕もそう思います!! でも、母さんのような人が当主になるのは問題あるよなぁ...... 僕は『聖ヒプノ修道院』の方がいいや!! あはははは!!」 トキロウは自分の自虐的な言葉に思わず可笑しさが込み上げてきた。

 「うふふふふふ!! そうね!! それは困るわね!!」ローザもトキロウの自虐的な言葉が可笑しかった。

 「では、トキロウ、セラ、王宮の件は国王陛下に話をしておくよ。 正式に決まったらまた報告に来る」話を終えるとアンソニーとローザは町へと戻っていった。 

 ローザとアンソニーの二人が帰り、小屋にはトキロウとセラだけとなった。「でも驚いたね? 僕たちが王宮に入るなんてさ...... 王宮の生活ってどんななんだろうね?」トキロウは王宮での生活に興味津々の様子だった。

 「......」興味津々のトキロウとは反対に、セラは特に関心を示すこともなく、黙って洋服のほつれを直している。

 「でも、この町を離れるのは寂しい気持ちがするよ...... やっと慣れ親しんできたのに......」

 「......」セラは黙っていた。

 「ローザさんとアンソニーさんが結婚することになったのは嬉しいことだよね!! ローザさんは王女になるなんて、なんかおとぎ話みたい素敵だと思わないかい?」

 「......」セラは何も言わない。

 「なんだよ?! さっきからずっと黙ってばかりで!! まだ、この前のこと怒っているのかい?」先ほどから何も反応を見せないセラにトキロウは不満を爆発させた。 セラはまだこの前、寝ている隙にキスをしようとしたことを怒っているのか......

 「時郎...... 外にお客さんがきてるわ。 出てあげて......」セラがようやく口を開いた。 しかしその内容は外に人が来ていると言う事だった。 

 「えっ!? お客さん......? 誰が来たんだろう......?」トキロウは疑問に思いつつも扉へと向かい扉を開けた。

 扉を開けると、小屋の前に数人の人間が立っていた。 「あっ!! みんな!!」トキロウは小屋の前にいた人間達を見て驚いた。 小屋の前にいたのは、病院から抜け出して行方がわからなくなっていた『白眠衆』達であった。 

 「時郎様......」長がトキロウに頭を下げた。 そして他の『白眠衆』たちも長と同じようにトキロウに頭を下げる。

 「みんな無事で良かったよ!! 急に病院からいなくなって心配したんだよ...... 今まで何処に行ってたんだよ......?」

 「申し訳ございません...... 世羅子が目覚めたと聞いたので、あの病院に我々がいるわけには参りませんでした。 時郎様に何も告げず、病院から抜け出したことは、深くお詫び申し上げます」長がトキロウに詫びた。

 「別に気にする必要は無いのに...... 立ち話もなんだから、とりあえず中に入って話をしようよ」トキロウは『白眠衆』たちに小屋の中に入るように言った。

 「しかし、それは......」長が小屋の中にいるセラを見た。 セラは『白眠衆』が来ても驚いた様子も見せずに、淡々と洋服のほつれを直している。

 「大丈夫だって!! いいだろ世羅子?」トキロウがセラに確認した。 

 「......」セラは何も答えなかったが、特に不満がある様子には見えなかった。

 「大丈夫みたいだから、みんな入って入って!!」トキロウは戸惑う『白眠衆』たちを小屋の中へ引っ張り込んだ。 トキロウに引っ張り込まれた『白眠衆』たちは仕方なく小屋の中へと入って。

 小屋に入ると『白眠衆』たちはセラの反応が気になり、セラの方に目をやったが、セラは小屋に入った『白眠衆』に目をやることもなく、洋服のほつれを直していた。 

 「気にしなくていいよ!! ほら、ここに座りなよ!!」トキロウは『白眠衆』達に食卓の椅子に座るように言った。 

 「いえ...... 私たちはこのままで構いません。 このまま立っております......」

 「本当に真面目なんだから...... でも、みんなが無事で良かったよ!! 僕はてっきり日本に帰ったか、もしくは......」トキロウは最悪の事を想像していただけに、『白眠衆』たちが全員無事だった事が嬉しかった。

 「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。 任務に失敗した我々は、このまま日本に帰るわけにもいかず、町外れのアジトで今後のことを皆と話し合っていました。 今日はそのご報告にと思いまして、時郎様の元へ馳せ参じました」

 「そっかぁ...... 確かにこのまま日本に帰ったら母さんに何を言われるかわからないもんなぁ...... 下手したら罰を受けるかもしれないし、日本に帰らなかったのは正解かもね......」

 「私たちは今後のどうすべきかを話し合いました。 日本に帰って生き恥を晒すか、この国に残り世羅子を討ち取ってから日本に帰るか、もしくは自害するか.......」

 「どれも物騒なものばかりじゃないか!! もっと前向きな選択は考えられなかったのかい? もしかしてまだ世羅子を狙ってるの?」

 「それも考えましたが、カグラ様と引き分けた世羅子を相手にしても我々に勝ち目はありません。 結局は任務を果たせないことになります」

 「じゃあ、これからどうするのさ? 日本にだって帰れないだろ? まさか自害するとかっ?!」

 「実は皆の意見は自害で一致しました...... しかし私が最終的な判断を皆から委ねられましたので、私の判断で自害はしないことになりました」

 「なんだよ...... 驚かすのはやめてよ。 心臓に悪いじゃないか...... 自害なんて馬鹿なことはやめて正解だよ。 せっかく助かった命なんだから大事にしないとさ...... それで結局はどうすることにしたのさ?」

 「私たちが最終的に決断したのは、このままこの国に残り、時郎様を新たな主としてお仕えすることにしました」

 「えっ?! 僕が新しい主なの?! それ本気なの......?」

 「はい。 もちろん本気です。 皆も了承してくれました。 これより我らはカグラ様では無く、時郎様にお仕えいたします」

 「そりゃまいったなぁ......  僕たちはこれから王宮に住むことになりそうなんだ。 僕に仕えるのはありがたいけど、一緒にいくのは無理かもしれないよ......」

 「その話でしたら、先ほど聞いていました。 アンソニー皇太子は我々の能力に興味を示しておられたようですので、我々の能力と引き換えに、時郎様にお仕えすることを許可していただけるかと思います」

 「あら? 聞いてたのか...... 相変わらず抜け目が無いというか、仕事熱心というか......」

 「黙って時郎様の様子を伺っていたことはお詫び申し上げます。 しかし我らが時郎様にお仕えして、この国の役に立つのであれば、我らは喜んで協力いたします。 どうかお許しをいただけないでしょうか?」

 「どうする世羅子?」

 「...... あなたが主なんだから、あなたが決めなさい。 私は関係無いから......」

 「なんだよ...... 冷たいんだから。 仕方ないな...... とりあえずアンソニーさんに話をしてみるよ」トキロウはとりあえずアンソニーの相談することにした。

 「ありがとうございます。 我ら身命を賭して時郎様にお仕えいたします」『白眠衆』たちはトキロウに跪いて、トキロウに忠誠を誓った。

 「あのさ、そういう堅苦しいのはこれからは無しにしてね...... こっちが疲れちゃからさ」トキロウはこういった堅苦しいものは苦手だった。 トキロウが気疲れしてしまう。

 「畏まりました。 時郎様......」

 「やれやれ、なんだかおかしなことになってきたなぁ〜〜〜〜...... 今日はなんかいきなり色々な話が飛び込んできて頭が混乱するよ......」トキロウはやれやれと言った表情だ。 王宮へ移る話、ローザとアンソニーの結婚、そして『白眠衆』の主になった事など盛りだくさんだった。 

 トキロウはセラの方を見たが、セラは相変わらず何の反応も示していなかった。 セラはまだ『白眠衆』を警戒しているのではないかとトキロウは思った。 だからセラは何も言わないし、何も反応を示さないのだと......

 「世羅子...... 『白眠衆』の長として、我らの命を救ってくれたことには深く感謝する。 だが一つ言っておく。 我らの主は時郎様であってお前では無い。 我らにとって最優先は時郎様のお身体。 そなたには一切協力も手助けもしない。 それを忘れるな!!」長がセラに向かって礼を述べたが、それは形式だけで、長の口ぶりはセラに対する蟠りはまだ解けていない様子であった。

 「......」長の言葉を聞いてもセラは何も言わなかった。 自分に対して蟠りがあるのは当然と言わんばかりの雰囲気だった。

 「何も反応せずか...... 世羅子、お前は我らがここ数日監視していたことに気づいていたな?」

 「えっ?! そうなの、世羅子?」

 「世羅子は我らが病院を抜け出してから時郎様を監視をしていたことに気づいておりました。 気づいていながらあえて気づかないふりをしていたのです」

 「なんだよ世羅子...... 気づいてたのなら言ってくれればいいのに。 僕がずっと心配していたの知ってただろ......」

 「それだけではありません。 時郎様、この度のこの一連の出来事は全て世羅子が仕組んだことです」

 「はっ?! どういう意味なの?! ちょっと言ってる意味がわからないよ......」

 「世羅子はこの国にカグラ様が来るように仕組んだのですよ......」

 「世羅子が母さんをこの国へ...... ますます意味がわからないよ。 僕たちは母さんから逃げていたのに、どうして母さんをわざわざ来させるように仕組む必要があるんだよ!! まだ薬の影響が残ってるんじゃないのかい?」

 「おかしいとは思いませんか? なぜ世羅子は噂が広がるのをわかっていながら、この町で力を使い続けたのですか? カグラ様から逃げてるのであれば、噂が立つのは非常にまずいはず。 しかし世羅子は構わず町の人を治療していた......」

 「それは町の人たちにお世話になっているからであって、世羅子もそのお礼として力を使っていただけだと思うよ。 噂が立つのは仕方なかったし、ましてヨーロッパまで追ってくるとは思ってなかったからだよ」

 「確かにそれもあるでしょう。 しかし本当の目的は噂が広がり、我らが噂を聞きつけて調査に来るように、あえて噂が立つように力を使ったのです。 世羅子は私たちがヨーロッパに逃げた事を嗅ぎつけるはずだと睨んでいました。 そして我らがその噂を聞きつけて、案の定調査をしにやってきた。 それなのに世羅子は我らがこの国に潜入しているのをわかっていながら逃げようともしなかった。 それは世羅子がこの国いるとカグラ様が知れば、カグラ様が乗り込んで来ると予想したからです」

 「ちょっと待ってよ!! それなら世羅子は母さんをこの国に誘き寄せて戦うつもりだったということ?」

 「その通りです。 世羅子はこの国でカグラ様と戦い、倒すつもりでいたのでしょう。 そしてカグラ様は世羅子の目論見通りこの国にやってきた。 世羅子からすれば計算通りの行動だったのです」

 「それは考えすぎだよ...... いくら世羅子だってそんなこと計算するはずないじゃん。 そうだろ世羅子?」

 「......」セラは何も答えなかった。

 「ちょっと世羅子!! 少しは反論しなよ!!」

 「だんまりか...... 世羅子、お前は町の人間達がカグラ様の術にかかっていることも知っていたな。 知っていながらあえてそのままにしていた......」

 「嘘でしょ?! ほ、、、本当なの、世羅子......?」トキロウの表情が強張った。

 「世羅子は町の人間がカグラ様の術にかかっていることを利用したんです。 だからあえて時郎様と離れて単独で行動したのです。 カグラ様が来ていることを知りながら、呑気にケーキ作りに勤しむなど警戒心の強い世羅子の行動としては明らかに変です。 あえて離れたのはカグラ様が先に時郎様のところに向かうと考えての事です。 世羅子にとってカグラ様が先に時郎様のところに向かわせる必要があったのです」

 「先に僕のところへ...... なんで先に僕のところへ行かせる必要があったのさ......?」

 「この国にカグラ様を誘き寄せ、先に時郎様の元へカグラ様を行かせたのは、カグラ様を倒す正当な理由が欲しかったからです。 もし仮にカグラ様が先に世羅子と戦い世羅子に倒されるようなことがあれば、日魅子様や時枝様、御三家や本家筋の人間が黙ってはいない。 それこそ大問題になり、日本に帰っても世羅子の状況は悪い。 しかしカグラ様が自ら乗り込んで来て、世羅子と時郎様の両方を亡き者にしようとしたら話は違います。 もし日本で実の息子の時郎様を手にかけるような事をすれば、日魅子様や時枝様はカグラ様を激しく責めるでしょう。 そうなれば『姫美島』家は間違いなく崩壊します。 だからカグラ様はこの国までやってきたのです。 誰にも真実を知られることなく時郎様と世羅子を亡き者にできると考えて...... しかし世羅子はそんなカグラ様の思惑を読んでいた。 そして先にカグラ様に時郎様の元へ向かわせる為、あえて時郎様と離れたのです。 そうして正当な理由を作ってからカグラ様を倒そうと考えていたのです。 カグラ様が世羅子より先に時郎様を手にかけるような事をすれば、そのカグラ様のおこないに対して世羅子はなんの気兼ねをすることなくカグラ様と戦うことができる。 それでカグラ様を倒しても誰も文句は言えない。 日魅子様も時枝様も納得せざるを得ないでしょう。 そして時郎様を救い、カグラ様を倒した世羅子を『姫美島』の当主になっても誰も文句は言えません。 世羅子はそこまで計算していたのです」

 「そんな馬鹿な...... 世羅子は『姫美島』の当主になるつもりなんか全くないよ。 それはみんな誤解だよ.......」長の推察をトキロウは否定した。 セラが『姫美島』の当主の座に興味が無いことはよく知っているからだ。

 「時郎様が信じられないという気持ちはわかります。 しかし我々は世羅子の行動が不可解であることに気づきました。 我々に嗅ぎ付けられることを理解しながら力を使い、カグラ様や我々が来ている事を知っていながら逃げなかった。 町の人間がカグラ様に操られていることをわかっていながらあえて何もしなかった。 なぜ世羅子は何もしなかったのでしょうか? それはカグラ様をこの地へ誘き寄せて倒すために全て世羅子が仕組んだからです。 ただ世羅子の計算違いは、ローザ・フェアリーがこの町に来たことと、カグラ様が撤退したことです。 カグラ様を倒すまでにはいかなかったのが、世羅子にとっては悔やまれるでしょうね...... 」

 「世羅子...... 大丈夫!! 僕は信じてないからね!!」トキロウはセラを信じていた。 

 「世羅子...... 何かいう事はあるか?」

 「......」セラは何も言わなかった。 ただジッと『白眠衆』たちを見つめていた。 トキロウは『白眠衆』を見つめるセラの目をみてゾッとした。 それはセラが今まで見せたことがない目であったからだ。 セラの目には怒りも、動揺も、焦りの色も何も無かったからだ。 その目から何も感じとれない...... 純粋とも違う何か一種の悟りを開いたような目であった。 なぜこの状況でセラはこんな目が出来るのか? トキロウはこの時初めてセラが人間ではないのかも知れないと感じた...... セラの中にトキロウの知らない何かがいるような感じがしてならなかった。 今までセラがどんな力を見せてもそんなことは感じたことはなかったが、セラの目を見てそう感じずにはいられなかった。

 トキロウは母カグラが異常なまでにセラを恐れている理由がわかった気がした。 カグラはセラの本当の姿に気づいていたのかも知れないと思った。 セラの奥深くに何か得体の知れないとてつもないものが潜んでいる。 それをカグラは感じ取ってセラを異常なまでに恐れ、警戒していたのだと......

 「当たらずも遠からずといったところだろうな...... 時郎様は世羅子を信用されているようですが、世羅子は時郎様が思っているほど純真な人間ではありませんよ。 世羅子は頭の回転が非常に早く計算高い人間です。 わかっていてもわからないフリをし、常に本当の自分を隠しています。 時郎様も思い当たる節があるのではないでしょうか」

 長の言葉にトキロウはハッとした。 確かに思い当たる節はある。 セラは人の心が読める能力があることをトキロウに隠していた。 ローザがそのことに気づかなければ、トキロウはずっとその事を知らなかっただろう。

 「カグラ様が世羅子を異常なまでに警戒し恐れるのは、世羅子の力だけではありません。 世羅子の中にとてつもない怪物のようなものが潜んでいると感じているからです。 世羅子をこのまま放っておけば『姫美島』家の崩壊だけではなく、それ以上の恐ろしいことが起きると危惧しているからに他なりません。 私たちもそう感じます...... 世羅子は人間ではありませんよ......」

 「そんな...... それはいくらなんでも大袈裟だと思うよ...... まして怪物だなんて......」長の言葉にトキロウは反論するも歯切れが悪い..... 今一瞬、トキロウも同じことを思ったからだ。

 「この町の人間も、ローザ・フェアリーも世羅子を恐れているでしょう...... それは無意識に世羅子の中に潜む怪物の存在を感じ取っているからです。 私たちも世羅子と戦い、その事を確信しました。 カグラ様が撤退されたのも、その事を感じ取り今は世羅子を倒すことが出来ないと思って撤退されたのでしょう......」

 「も、、、もういいよ!! 君たちは世羅子に命を救われたんだぞ!! なんでそんな酷いことを言うんだよ!! 僕は世羅子を信じる!! 世羅子は怪物なんかじゃない!! 世羅子は誰よりも優しい子だよ!!」トキロウはもう聞きたく無かったし、考えたく無かった。 セラは誰よりも優しい人間で、怪物であるはずがないと自分に言い聞かせたかったからだ。

 「...... 申し訳ありません。 時郎様の気分を害したことは深くお詫びいたします...... 配慮が足りませんでした」長がトキロウに詫びた。 セラを信頼するトキロウからすれば聞きたくない話であったはずだからだ。

 「とりあえず僕に仕えるなら世羅子とは仲良くやって欲しい。 世羅子は僕に命の恩人なんだから!! もし今後、世羅子を侮辱するような事を言ったら許さないからね!!」トキロウは『白眠衆』に厳しく言い聞かせた。 

 「かしこまりました、時郎様...... 肝に銘じます」

 「世羅子、それでいいかい?」

 「私は構わないわ......」セラは素っ気なく言った。






「催眠聖女 ローザ・フェアリー」(29)終





 最終話に続く


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